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作 フジタハナ
【登場人物】
姉 ♀
弟 ♂
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【配役表】
姉:
弟:
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とある病院の一室。一人でノートPCに向かっている。
弟 「んーーーーー。パスワードパスワード・・・なんだろう・・・。」
キーボードを叩く。
弟 「誕生日かなぁ。いや、誕生日だと危ないだろっ!! でも、オヤジならあり得るか。」
キーボードを叩く。
弟 「あー、やっぱ自分の誕生日でもないか・・・。」
姉 「なにやってんの?」
弟 「うわぁっ!!! ビックリしたぁ…」
姉 「何ビックリしてんのよ?」
弟 「いや、な、なんでもないけど。」
姉 「ふーん。」
弟 「てか、なんか用?」
姉 「あー、お母さんがあんたを呼んでこいって。」
弟 「え、オヤジの容態が急変でもしたのか!?」
姉 「そこまでの変化はないけど、まだ眠ってるみたい。」
弟 「そっか。オレちょっと用事あるから、終わったらすぐ行くから先に…」
姉 「私、見てたんだけど。」
弟 「え? な、何を?」
姉 「あんたがお父さんのパソコンで何してたのか。」
弟 「はぁ? 何言って…。」
姉 「お父さんのインターネットバンキングに入ろうとしてたよね?」
弟 「(ギクッ)は、はぁ!? 」
姉 「私見てたから。今更とぼけないでね?(じーっと見つめる)」
弟 「うっ…。 ちょ、ちょっといじってただけだよ!」
姉 「なんでお父さんのお金下ろそうとしてたの?」
弟 「そ、それはっ…。」
姉 「なんで?」
弟 「・・・。」
姉 「言わないならお母さんにこの事言うけど。」
弟 「えっ!? そ、それは勘弁して…。」
姉 「じゃーなんで?」
弟 「くっそ、なんでこんな事に…。」
姉 「お母さんに電話しちゃおっかなぁ~。」
弟 「ご、ごめんなさいごめんなさい!言いますいいます!!」
姉 「うん、なんで?」
弟 「か・・・、彼女がディスティニーランドが大好きでさ。」
姉 「うん?」
弟 「だ、だから、ディスティニーランドが好きで、年間パスポートが欲しいって言うんだよ。」
姉 「てか、あんた彼女いたの?」
弟 「最近出来たんだよ! すっげえ可愛い彼女でさぁ。あ、見る?」
姉 「ふーん、じゃー見る」
弟 「んー・・・。ほら、可愛くね?(スマホ見せる)」
姉 「あ、本当だ。可愛いじゃん。」
弟 「だっろー! 初めて出来た彼女なんだ!」
姉 「あーハイハイ。んで。彼女の為に年間パスが欲しいと。」
弟 「あぁ。でも今月厳しくて金がなくってオヤジから借りようと思って…。」
姉 「チョット待って、年間パス買うって事は、何度もディスティニーランドに行くって事よね?」
弟 「デートで行こうと思ってるけど。」
姉 「ここからディスティニーランドまで行くのだって電車で4時間もかかるのに、近所でもないのにそんなに 行く?」
弟 「彼女がディスティニーランドが好きって言うから…。」
姉 「好きなのはわかったけど、年間パス買ってまで行く? 元取れるほど行く?てかあんたディスティニー に興味ある?」
弟 「彼女はディスティニーランドの近くに住んでるんだよ!それに一人でも行くって言うから…。」
姉 「え、遠恋なの? どうやって彼女と出会ったのよ?」
弟 「ネット」
姉 「あーハイハイ。なるほどね。」
弟 「だからちょっと金が必要で・・・。オヤジに相談しようと思ったらあんな状態だし。」
姉 「あー・・・相談はできないか・・・。」
弟 「あぁ・・・。」
間。
姉 「で、お金引き出せそうなの?」
弟 「いや、パスワードがわからなくってさ。」
姉 「えぇ!? それじゃ無理じゃない。」
弟 「ねーちゃん知らね?」
姉 「知るわけないじゃない。」
弟 「だよなぁ・・・。」
間。
弟 「てかさ、ねーちゃん怒らないの?」
姉 「何が?」
弟 「だって、勝手に金引き出そうとしてたのに。」
姉 「別に怒らないけど。」
弟 「え、金にうるさいねーちゃんが怒らないって・・・。もしかして、ねーちゃんも何かあるのか?」
姉 「ま、まぁ、私もちょっと色々あって、ちょっとお金借りれたらなぁって思ってたのよ。」
弟 「はぁ!?まじかよ!!」
姉 「う、うるさいわよ!ここ病院なんだから!」
弟 「あっ・・ご、ごめん・・・。」
間。
弟 「で、ねーちゃんはいくら必要なんだ?」
姉 「えーっと・・・。 あんたよりちょっと多い・・・かな?」
弟 「ん? だからいくら?」
姉 「あー、えーっと(ごにょごにょ)・・・・円。」
弟 「は? 聞こえねーんだけど?」
姉 「さ、300万円・・位・・・。」
弟 「ハァ!?!? 何使うんだよ!」
姉 「か、彼が・・・。彼がバンドマンで、機材を新しくしたいけどお金が足りないから貸してくれっ て・・・。」
弟 「ハァ・・・。ねーちゃんは昔っからモテたけど、貢ぎ体質だったからなぁ。」
姉 「貢いでなんてないわよ! 貸してくれって言われてるだけよ!」
弟 「前もホストに入れ込んで結構な金額注ぎ込んでたし、その前は・・・なんだっけ?役者崩れみたいな男 だったよな?」
姉 「ホストは・・まぁ確かに通ってたけど、ちょっとだけよ! 役者してた彼だって、まだ駆け出しで大変 だったから…。」
弟 「まぁいいや。ねーちゃんの恋愛事情に首つっこまねーよ。」
姉 「そんなのお互い様でしょ!」
弟 「とにかく、今はどうやって引き出すかって事が重要だからさ。」
姉 「そ、そうね。」
弟 「あ!! かーちゃんから電話きた!!」
姉 「え!?な、なんとか誤魔化さないとっ!」
弟 「う、うん、わかってる!」
電話に出る キザっぽく話はじめる
弟 「もしもし?かーちゃんどうした?・・・ねーちゃん?? 会ってないけど・・・。
オレ今さ、スマホ内にある家族旅行の画像見てたんだ。
オヤジがカニ美味そうに食べててさ、すげー笑顔で写ってるから、なんだかオレ泣けてきちゃっ て・・・。
あー、ごめん。顔洗って涙落ち着いたらすぐ行くから。かーちゃんごめんな。
うん・・・うん・・・、わかった。後で。」
電話を切る
弟 「ふぅ。」
姉 「あんた本当に昔っから誤魔化すのうまいよね。」
弟 「うっせえよ。とりあえず時間稼いだからコレなんとかしないと。」
姉 「そうね・・・パスワードか・・・。誕生日は確かめた?」
弟 「とっくにやった。オヤジとかーちゃんのもやってみた。」
姉 「どっちもだめだった?」
弟 「あぁ。」
姉 「そっか・・・。」
弟 「オヤジって意外とそそっかしいから、どっかに書いてたりしねーかな。」
姉 「あー、手帳とかスマホにないかな?」
弟 「あー、ありそう・・・。フフッ、昔さ、仕事のメモをよく手に書いてたよな。」
姉 「あー書いてた書いてた。一緒にお風呂に入った時にお父さんゴシゴシ洗うんだけどきれいに落ちなくっ てさ。」
弟 「手の甲が常に黒ずんでたよなぁ。」
姉 「一生懸命仕事してたもんね。」
弟 「真面目一筋だったよなぁ。」
姉 「賭け事もしないしさ。」
弟 「浮いた話も全然なかったし。」
姉 「仕事で大変だった時も、家族サービスを忘れなかったし、」
弟 「学校行事も全部来てくれたしなぁ。」
姉 「改めて考えると、お父さんってすごい家族思いなんじゃ…」
弟 「見ろよ。画像フォルダー。家族写真しか入ってないんだぜ?」
姉 「え、見たい。」
弟 「ん・・・(クリック)、ほら、ここ。」
姉 「わ!懐かしい!! みんなで日光に行ったよね。」
弟 「ほら、ここでねーちゃん転んで額から血ィ出て大変だったじゃん。」
姉 「こんな小さい頃の画像まで入ってる。」
弟 「フォルダー名が『宝物』って・・・。」
姉 「それ、恥ずかしわ・・・。」
間。ぼんやり画像をみている。
姉・弟 「ハァ、あたし達(オレ達) 何やってんだろ・・・。」
間。
姉 「あっ!!! お母さんから電話!」
弟 「と、とりあえず誤魔化して!」
姉 「わ、わかってるってば・・・。」
電話に出る 動揺しながら
姉 「もしもしっ・・・あー本当にごめんってば。あー・・えーと・・・、と、トイレ! 今トイレ行って る!
なんかお腹痛いって言ってて・・・。うん、うん・・・すぐ行くから!
イヤだって、男子トイレに私が入るわけには行かないじゃない! でしょ!?
はい・・わかりました。うん、出てきたらすぐ行くから。それじゃ。」
電話を切る
弟 「ねーちゃん・・・もうちょっと何とかならなかった?」
姉 「うるさいわね!ほら、とにかくパスワードをなんとかしないと、何回も失敗してたらロックかかっちゃ う!」
弟 「マジカヨ、もうすでに二回失敗してるから、次がラストかも。」
姉 「あーーもーーどっかに書いてないの!?」
弟 「って言われても、今パソコンしかねーし、わっかんねーよ!」
姉 「ハッ!!」
弟 「え、なんか思いついた?」
姉 「ちょっとパソコン貸して!」
弟 「はぁ?貸すってなんだよ。」
姉 「いいから貸して!!」
グイッとパソコンを引き寄せる
弟 「オイ!! 気をつけろよ!!」
パソコンをひっくり返す
姉 「あ!!!!あった!!!」
弟 「ハァ? なんでひっくり返してんだよ!」
姉 「ホラ!! ここ!!!」
弟 「え・・・(覗き込む) ええええっ!!!」
間。
姉・弟 「・・・プッ、アッハハハハハハハ!!!」
弟 「マジカヨ・・・こんなところかよ!!(笑)」
姉 「も、もう・・・お父さんってば・・・(笑)」
弟 「オヤジらしいっちゃらしいけどさ・・・プッ(笑)」
姉 「まさか、ノートパソコンの裏にガムテープ貼って、その上にマジックで大きく書いてあるなんて思わな かったわ(笑)」
弟 「パスワードの意味がねーだろ。オヤジよぉ・・・(笑)」
姉 「あっ・・・。」
弟 「え? どうした?」
姉 「ねえ、この番号って・・・。」
弟 「んー?・・・(だんだん冷静になっていく) これって・・・。」
姉 「・・・私達の・・・誕生日・・・。」
弟 「マジカヨ・・・。」
間。姉神妙な顔つきで。
姉 「よし・・・開けよう。」
弟 「・・・あぁ。」
姉 「なに躊躇ってるのよ。開けるわよ!」
弟 「わ、わかってるよ!!」
姉 「うるさい! 静かにして!」
弟 「・・・んん!(口をつむぐ)」
姉 「いくよ・・・。」
間。パスワードを静かに打ち込んでいく。
弟 「あっ・・・開いた・・・。」
姉 「ふぅ・・・。」
弟 「オヤジはいくら溜め込んでたんだろう・・・。」
姉 「えーっと・・・。あ、結構入ってる。」
弟 「マジカヨ。オヤジやるなぁ。」
姉 「あっ・・・。」
弟 「ん?」
姉 「・・・。」
弟 「え、なんだよ。どうした?」
姉 「・・・見て。」
弟 「はぁ?」
姉 「いいから見て!!」
弟 「(画面を覗き込む) ・・・マジカヨ・・・。」
姉 「お父さん、私達に200万ずつ分配されるようにしてある・・・。」
弟 「オヤジ・・・。」
姉 「何よ。知らなかったわよ。お父さんがこんな事してくれてるなんて・・・。」
弟 「オレも知らなかった・・・。」
姉 「私達・・・何やってんだろう・・・。」
弟 「ほんとにな・・・。」
姉 「もう・・・お父さんてば・・・。」
弟 「・・・。なぁ、ねーちゃん金足りなくね?」
姉 「え?、あぁ・・うん・・・。でもこれ以上何かしてもらう訳にはいかないよ。」
弟 「・・・。んじゃオレが100万貸すよ。そしたら足りるだろ?」
姉 「え、いいの?」
弟 「オレは年間パスポートが買えればそれでいいからさ。」
姉 「そっか・・・、ありがとう。」
弟 「貸すだけだからな。」
姉 「わかってるわよ。」
間。
弟 「てかさ、その彼で本当にいいの?」
姉 「・・・。」
弟 「オレ、ねーちゃんがいいように彼に使われてるの、本当は嫌なんだけど。」
姉 「・・・。」
弟 「本当はわかってるんじゃねーの?」
姉 「・・・わかってるって・・・何がよ。」
弟 「オレ、バンドとか機材とかよくわからないけどさ。」
姉 「・・・。」
弟 「300万なんて大金、彼女に頼ったりするかな。」
姉 「・・・。」
弟 「だから・・・。」
姉 「・・・だから?」
弟 「だからっ・・・だからさっ!」
姉 「待って!!!」
弟 「(ビクッと体が止まる)」
姉 「それ以上言わないで・・・。」
弟 「・・・え?」
姉 「わかってるの、本当は全部わかってる。・・・。本当にバンドに使うの?って疑ってるわよ! でも聞 けないんだもの!」
弟 「・・・ねーちゃん」
姉 「怖くて聞けないのよ!! 聞いて嫌われたらどうしよう。疑ってるって事を悟られて、彼がどこかに 行っちゃったらって・・・。」
弟 「・・・。」
姉 「でも、お父さんがこんな事をしてくれるなんてっ・・・」
弟 「・・・パスワードだってオレ達の誕生日だしな。」
姉 「家族の写真だっていっぱい入ってた。」
弟 「・・・メール、見てみろよ。」
姉 「え?」
弟 「メールの件名」
姉 「(PCを覗き込む)」
弟 「ほら、家族の事しか書いてねーし。」
姉 「・・・本当だ。お母さんとこんなに私達の事やり取りしてる。」
弟 「あぁ。」
姉・弟 「・・・。」
間。
姉 「・・・わよ。(ボソ)」
弟 「ん?」
姉 「・・・使えないわよっ!!お、お父さんのお金を、こんな男の為に使えないって・・・。」
弟 「・・・オレも、同じこと考えてた。」
姉 「いや、あんたは初めての彼女だから。」
弟 「オレら、まだ会ったことないんだよ・・・。」
姉 「え?」
弟 「ネットで知り合って『お付き合い』ってカタチは成してるけど、実際まだ会ったことないんだ。」
姉 「そーなの?」
弟 「オレも金でカタチを作ろうとしてただけなのかもなぁ。」
姉 「・・・そっか。」
間。
弟 「(頭を掻きむしりながら)あーあ!!・・・オレ達・・・何やってんだか・・・。」
姉 「本当だよね・・・。バカな子供を持ったもんだな、お父さんは。」
弟 「だな。」
姉・弟 「(二人で笑う合う)」」
間。
姉 「(深呼吸する)なんだか目が覚めたみたい。」
弟 「あぁ、オレも。」
姉 「コレ(PC)、見なかった事にしよう。」
弟 「そうだな。こっそり元に戻しておくよ。」
姉 「うん、お願いね。」
弟 「あっ・・・、かーちゃんから電話来た・・・。」
電話に出る
弟 「もしもし?遅くなってごめん!これから行くから! やっと腹痛が治まった所で・・・あぁ、すぐ行 く!!」
姉 「(電話を奪い取って)お母さん、ごめんね、すぐ行く!!・・・え、・・・お父さん目が覚めた の!?」
弟 「(更に電話を奪って)マジカヨ!! すぐ行くから!!待ってて!! 」
姉 「(電話を奪って)お母さん・・・うん・・・良かった・・・。本当に良かった・・・。」
弟 「(走り出しながら)ほらっ!!ねーちゃん!!早く行くぞっ!!」
姉 「ま、待ってよ!!」
電話を切って二人走り出す。