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イラスト猫
塗装葉2

一人台本

台詞

ホワイト鳥

(酒場のカウンター席のイメージで)



 すみませんね、ご心配かけてしまって…

 あ、お酒いいですかね?
 いえ、あなたが仕事中なのは分かってるんですけど、こんな話…、飲みながらじゃないと話せませんから…


(間を開けて、一口飲む等)


 それで…、あの日に起きた事…、ですね
 大筋はよくある話ですよ…。
 人気のない夜道、女の一人歩きで、不審人物に付けられて襲われかけた…。よくある話です。

 ただその…、不審人物というのが…、普通じゃ…なかったというか…

 物凄く大柄で、頭からフードをかぶっていて、顔が見えなかったんですが…
 今にして思うと、頭が異様に大きくて…
 その頭が、ビクビクと小刻みに…、揺れているというか、痙攣してると言った感じで…

 こっちが茫然としてると突然、腕をつかまれたんです。
 それが、人の肌の感触じゃなくて、ヌメついた粘液の感触で…
 そう、魚…、特にナマズやウナギを掴んだ時に近い感覚でした。

 掴まれた途端に、そいつが喚いたんです。
 人間の声と思えないくらいの…、重くて低い声…
 何を言ったのかは分かりません。少なくとも日本語じゃなかった…

 そういえばその時…、やっぱり腐った魚みたいな匂いがしました…
 海も遠いし、市場があるわけでもないのに…


 それで…、無我夢中で腕を振り払って走って逃げたんです。
 家に帰って、家中の鍵を閉めて回って、布団に潜りこみました。

 しばらくすると、家の外から足音がするんです…。
 ビチャビチャと、重くて湿った足音が…。

 ドアのノブを回そうとする音も聞こえましたし、家の周りを物色するようにグルグルと足音が回っていたんです…。
 いつドアや窓が破られるかと、恐怖でどうにかなりそうでした…。

 ふと気が付くと…、足音はいつの間にか聞こえなくなっていて…
 窓からは朝日が差し込んでいました…。


 それから数日、またそいつが来るんじゃないかと思うと、外を出歩くこともできなくて…
 でもその日以来、特に何もありません…、今のところは…ですけど。


 あ、それと掴まれた腕なんですけどね…、まだアザが残ってるんです…。
 これ…、どう見ても人間の手じゃ…、無いですよね…?


 話は、それだけです…。

 あ、いえ、私はもう、この話に関わりたくはありません…。
 それでは、この辺で失礼します…。

 余計なお世話かもしれませんけど、あんまり深入りしない方がいいと思います…。
 人間が近づいちゃいけない…、この件は、そんな類の話だと思うんです…。

 それでは…。

【作:水城洋臣】





 

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