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ステンドスター
カップケーキ

午後8時のチョコレート

​作 フジタハナ


 【登場人物】

和葉 かずは ♀29歳 普段はキリッとした女性

荘司 そうじ ♂29歳 和葉と同期 


 場所はオフィス、お互い仕事が終わらず残業をしている


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 【配役表】

和葉:

荘司:


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和葉  「ハァ・・・。(ため息)」

荘司  「さすがに残業続きだと疲れてくるな。」

和葉  「そうね・・・。それだけじゃないけどね。」

荘司  「なんだよ。含みのある言い方だな。」

和葉  「別にぃ。」

荘司  「(チラッと和葉を見ながら)ちょっと休憩すっか。」

和葉  「そうね。終わりが見えてきたけど、仕事詰めすぎて脳が糖分を欲してるわ。」

荘司  「そう言うと思って。 ホイ、チョコレート。」

和葉  「気が利くじゃない。・・・え、ゴディバ!こんなお高いチョコどうしたの?」

荘司  「今日行った取引先の子にもらったんだ。オレが甘い物好きだって言ったらくれた。」

和葉  「へぇ。貢物ってワケね。相変わらずオモテになる事で。」

荘司  「うるせーぞ。文句言うならやらねー。」

和葉  「あーごめんごめん。ありがたーく頂戴いたします。」

荘司  「うむ、くるしゅうない。たーんと食え。」

和葉  「せっかくチョコレート様を頂くのですから、ワタクシがコーヒーを淹れて参りましょう。」

荘司  「あ、砂糖2杯ね。」

和葉  「はぁ!?どんだけ甘党なのよ!チョコが甘いんだからコーヒーはブラックでいいでしょ?」

荘司  「やだ。甘くないと飲めない。後ミルクも入れて。」

和葉  「もー、糖尿になっても知らないからね。」

荘司  「大丈夫だよ。俺の家系で糖尿になった人いないから。」

和葉  「そーですかー。 (コーヒーをいれて) ハイ、どーぞ。」

荘司  「サンキュ。」

和葉  「では、チョコレート様をいっただっきまーっす! (食べる) んん!!おいしい!!」

荘司  「和葉だって甘党なんだから、糖尿リスクは俺と同じじゃね?」

和葉  「私は甘いだけじゃ嫌なの。何事もバランスよ。

     甘いチョコと苦いコーヒー。

     甘いチョコとしょっぱいポテチ。

     甘いチョコとしょっぱいベーコン。」

荘司  「いや、ベーコンはないだろ。」

和葉  「アメリカにあるのよ?チョコレートベーコンってのが。」

荘司  「うわぁ・・・。俺は甘い物ならひたすら甘い方がいいなー。」

和葉  「あ! 甘いチョコと酸っぱいラズベリーとかもいいなぁ。

     後はサッパリ漬物とコッテリお肉とか、ほっこりポテトにしょっぱい塩辛とか!」

荘司  「プッ。」

和葉  「ちょ、何よ。」

荘司  「後半チョコ関係ねーし。」

和葉  「バランスの話よ!」

荘司  「プハッ!アハハハッ!」

和葉  「笑いすぎ!」

荘司  「ハーおっかしぃ。しっかし、さっきまで元気なかったのに、少し元気になってきたな。」

和葉  「え? 私そんなに元気なさそうに見えた?」

荘司  「あぁ。」

和葉  「そっかぁ・・・。職場では出さないようにって思ってたのに。」

荘司  「お前とどれだけの付き合いだと思ってんだ? 入社してからだぞ?」

和葉  「7年だもんなー。・・・てかもう入社してから7年も経ったの!?」

荘司  「あぁ、同期は半分以上いなくなったなー。辞めてった連中何してっかなー。」

和葉  「・・・ちーちゃんはさー、去年結婚したってさー。」

荘司  「へー、そっかぁ。」

和葉  「・・・ハァ。」

荘司  「なんかあったのか?」

和葉  「あー・・・。別にたいした事じゃないんだけどね。」

荘司  「うん。」

和葉  「実はさ、お盆に実家に帰った時にちょっとね・・・。」

荘司  「ん? ちょっとって?」

和葉  「・・・お見合い、すすめられたの。」

荘司  「えっ?」

和葉  「いや、断ろうと思ってたのよ。でもさ、お見合い話を持ってきた親戚のおばさんや親が、

     どんな思いで勧めてきたんだろうって思ったら、即断も出来なくって。

     カタチだけでも考えるフリして、一週間経ったら断ろうって思ってたのよ。」

荘司  「変な気の遣い方だな。」

和葉  「うるさいわね。親戚や親の対応って難しいのよ。向こうの気持ちもわからないわけじゃないし。」

荘司  「ハイハイ。それで?」

和葉  「それで、明日がその一週間になるんだけど・・・。」

荘司  「うん。」

和葉  「お盆明けにさ、後輩二人から結婚報告されてさ。」

荘司  「あー、田中と山崎か。2人共今年いっぱいで仕事辞めるらしいな。」

和葉  「そうなのよ・・・。」

荘司  「それで、なんでお前が元気なくなるんだよ。」

和葉  「だって・・・。

     片や恋愛結婚で寿退社。幸せいっぱいな20代女子。

     片や親や親戚に心配されてお見合いを勧められる、寂しい三十路前女。

     仕事は順調で不満はないけど、たまにフッとね、女の自分がささやくのよ。

     『お前はこれでいいのか?』 って。」

荘司  「考え過ぎじゃねーの?スタイルだって顔だって、正直お前の方が良いと思うぞ?」

和葉  「そーいう問題じゃないのよ。最後に恋愛したのっていつだったかなー?って。

     心揺さぶられるような、情熱的な恋愛がしたい! いや、そんなにしたいワケじゃないけど、

     このまま枯れていくには早すぎない?って思うのよ!!」

荘司  「複雑な乙女心ってやつですか。」

和葉  「そーなのよ!!」

荘司  「それで今日はしょぼくれてたワケか。」

和葉  「別にしょぼくれてないわよ。」

荘司  「ふーん、バカバカしい。」

和葉  「バカとは何よ。私なりに心の整理をしようとして、たまたま色んな事が重なったの!

     私は何してきたんだろう。仕事一筋でやってきたけど、それだけだし。

     ・・・あーあ、考えるのも疲れちゃったなー。もーいっそお見合いしよっかなー。」

荘司  「ブッ!!(コーヒーを吹き出す)ゴホッゲホッ!」

和葉  「ちょ、吹き出さないでよ。」

荘司  「ゴホッ・・・、お前がアホな事言うからだろ。」

和葉  「今度はアホて・・・。なんでそんな酷い言い方すんのよ。」

荘司  「酷かねーよ、なんでそんな結論になるんだよ。」

和葉  「だって・・・。仕事と女を両立させたいなら、何もない今より、

 

     お見合いも悪くないかなーって思ったのよ。

     恋愛スタートじゃなくても「幸せになりたい」って真剣に考えてる人たちがいるわけだし。

     その中にも『仕事を続けたい』って私の希望を良しとしてくれる人が、きっといると思うのよね。

     言葉がアレだけど、結婚する為の条件というか、私の願いを叶えてくれる人がいると思うのよ。」

荘司  「どこの馬の骨ともわからないヤツと結婚するとか考えらんねーよ。」

和葉  「そうかなぁ? これも一つの出会いだと思うけど。」

荘司  「バカじゃねーの!!そんなんで幸せになれるかよ!!」

和葉  「そんなのお見合いしてみないとわからないじゃない。」

荘司  「時間の無駄だって言ってんだよ!」

和葉  「無駄にするかどーかはお見合い次第でしょ。」

荘司  「妥協で物事考えてるだけだろ!」

和葉  「別にそーじゃないわよ。」

荘司  「んじゃ何だよ。」

和葉  「一つの選択肢としてって事よ。」

荘司  「ものは言いようだな。」

和葉  「さっきから何でそんなに突っかかってくるのよ。」

荘司  「突っかかってねーよ!」

和葉  「しかも怒ってるし。」

荘司  「怒ってねーよ!」

和葉  「怒鳴ってるじゃない。」

荘司  「怒鳴ってもねーよ!」

和葉  「もー荘司は関係ないじゃない。」

荘司  「うるせーよ!関係ねーよ! あーもー仕事するわ!!」


 
 間。 キーボードを叩く音が響く。

 


和葉  「・・・ねぇ。」

荘司  「・・・。(キーボード音のみ)」

和葉  「私変なこと言った?」

荘司  「・・・。」

和葉  「無視しないでよ。」

荘司  「・・・。」

和葉  「荘司が、バカだアホだって言う気持ちも、わからないワケじゃないの。

     でも色々考えちゃうの。

     仕事だったら、全部じゃないけどやった分だけ認めてもらえる。

 

     来年か再来年には上に上がれると思うし。」

荘司  「・・・うん。」

和葉  「でもね、来年はもう30なんだよ。

     周りがどんどん結婚して新しいステージに入っていくのに、私は恋愛すらここ数年してないし。

     恋愛して不安定になる位なら、何もない方が楽だって思ってたんだもん。(だんだん涙目になる)

     自分が一人でバランス崩さずにいるには、恋愛要素は不確定すぎて怖いの・・・。

     もし崩れてしまったら、立ち上がれなくなりそうで・・・。

     って、オモテになる荘司にはわからないよ。複雑な女心なんてさ。」

荘司  「・・・。」

和葉  「(涙を拭って)よし!私も仕事する! 泣いてたって仕事が終わるわけじゃないし。

     幸せになれるわけじゃないし。」

荘司  「ほら・・・。」

和葉  「えっ?」

荘司  「ハンカチ。涙拭けよ。」

和葉  「いいよ、汚れちゃうし。」

荘司  「いいから!」(グイッと渡す)

和葉  「あっ・・・、あり・・がと。」

荘司  「お前は周りに気を使いすぎなんだよ。自分の事より周りの事を優先するから、

 

     自分が苦しくなるんだよ。」

和葉  「・・・うん。(泣き出す)」

荘司  「それはお前の良い所でもあるけど、

 

     結局、お前が大事にしてるバランスがとれてないって気が付け。」

和葉  「・・・うん。」

荘司  「親とか親戚とか、そんなの気にすんな。自分の事を第一に考えろ。

     後輩の結婚?比べてないで祝ってやれ。

 

     比べたってしょうが無い事だって、本当はわかってるんだろ?」

和葉  「・・・うん。わかってる。」

荘司  「俺は入社時からお前の愚痴を聞いてきた。まぁ、俺の愚痴も聞いてもらってたしな。

     お前の良い所も悪い所もわかってるつもりだ。」

和葉  「・・・。」

荘司  「いつも気丈に振る舞ってるお前が、こんな風に泣いてるのなんて見たくないんだ。」

和葉  「・・・ごめん。」

荘司  「あやまるな。そうじゃなくて・・・。

     俺がさ、もうちょっとお前に何かしてあげれたらいいんだけど、

     俺に出来る事なんて、せいぜいお前の好きなチョコを買ってくること位で・・・。」

和葉  「・・・え?」

荘司  「(ハッっとなる)あー!! いや、そんな事はどーでもよくて! いや良くないけど!

     だから、あのっ・・・えーと・・・。

   (慌ててごまかすように)

     チョ、チョコは元気の無い時に食べると、チョコホルモンってのが脳に刺激を与えてくれるから、

     そのホルモン分泌を促す為に俺は・・・いや、お、俺たちは日夜努力をしていると言うか。

     んで、チョコホルは女性の味方というか、あっ、チョコホルってのは、チョコホルモンの略だ。

     そのチョコホルにも種類がそれぞれあって、

 

     一番有名なのがチョコホルBってので一番脳に糖分を送るのが早くて。

     でも早すぎて時々体が拒否反応を起こす時があるから、

 

     そうならないようにコーヒーの苦味成分から分泌される

     コーヒーホルモンによってバランスを整えてくれて、

 

     だ、だから俺はお前にチョコを送るっていうのは、

     元気な活力をアレする為の、栄養ドリンク的なアレなんだよアレ。」

和葉  「えーと。どーいう事?」

荘司  「あー・・・・。えーと・・・。と、とりあえず仕事終わらせようぜ。」

和葉  「う、うん。わかった・・・。」

荘司  「お、おう。」



 間。キーボードを押す音が響く。



荘司  「あー、あのさ・・・。」

和葉  「・・・なに?」

荘司  「俺もグダグダ考えてる場合じゃないんだなってわかった。」

和葉  「何?グダグダって。」

荘司  「いや、ここまで言ってたら何となく気づけよ・・・。」

和葉  「気づくって・・・何?」

荘司  「あー・・お前は仕事出来るのに、男心がわからねー女だな。」

和葉  「何よ、その言い方。」

荘司  「だからっ!・・・あーもう・・・。なんでわからねーんだ・・・。」

和葉  「チョコホルモンの話?」

荘司  「そーだ。チョコホルの話だ。」

和葉  「いや、チョコホルモンって結局よくわかんないんだけど。」

荘司  「俺は・・・。俺はお前のチョコになりたいんだ。」

和葉  「・・・はぁ?」

荘司  「俺は!お前のチョコになりたい!」

和葉  「え? ちょっと何言って・・・。」

荘司  「チョコホルモンを分泌するチョコになりたいんだよ!」

和葉  「ねぇ、チョコホルモンじゃなくてもっとわかりやすく・・・。」

荘司  「わかったよ!んじゃ言ってやるよ!一世一代の遺言だと思ってよーく聞けよ!」

和葉  「遺言って死ぬの?」

荘司  「死なねーよ!生きるよ!これからも図太く生きるよ!」

和葉  「そう、ならよかった。」

荘司  「いやよくねーよ!」

和葉  「じゃーなんなのよ!」

荘司  「お前が好きだ!! 結婚しよう!」



 間。



和葉  「・・・・・はぁ!?」

荘司  「別にいいだろ? お見合い結婚する位なら、俺と結婚したっていいだろ?」

和葉  「え、いや、急すぎない???」

荘司  「俺はお前の願いを叶えれるぞ?」

和葉  「願いってなによ?」

荘司  「俺はお前が仕事をする事に賛成だし、お前が不安がっている『女の安定』を提供できる。」

和葉  「提供って。」

荘司  「俺は、お前の安定が俺の安定なんだ。」

和葉  「えーと・・・。」

荘司  「もっと早く言えば良かった。でも、俺だってお前とのバランス壊したくなかったんだよ。」

和葉  「荘司・・・。」

荘司  「でもそんな事言ってられなくなった。お見合いされてたまるかっての!」

和葉  「・・・プッ、あははははっ!!」

荘司  「なんで笑うんだよ!」

和葉  「いやだって、プッ、チョコホルモンって・・アハハハッ!」

荘司  「必死だったんだよ!俺だって『何言ってんだ?』って思ったよ!」

和葉  「もうちょっと普通に言ってくれればいいのに。」

荘司  「だって、言うつもり無かったのにお前が『お見合い結婚しよっかなー』とか言い出すから。」

和葉  「まー、それはそれで一つの選択肢だと思ってるけど。」

荘司  「それでいいのかよ。」

和葉  「んー良いか悪いかは置いといて、一つの選択肢だって。」

荘司  「誰だかわからない男より、お前の事を知ってる、お前の事が好きな、お前の事を大切にする、

     

     将来有望な男だぞ? 俺でどーだ!」

和葉  「『俺でどーだ!』って言われても。」

荘司  「恋愛対象として、俺じゃ不足か?」

和葉  「だって荘司は彼女がいるんじゃ・・。」

荘司  「いねーよ、どこ情報なんだよそれ。俺はもう3年フリーだぞ。」

和葉  「でも、色んな女性と食事に言ってるよね。」

荘司  「そりゃ、『相談に乗ってください』って言われたら仕事帰りに食事しながらって事もあったし、

     向こうから来る事だってあったけど、それ以上の関係になりたいって思わなかったんだよ。」

和葉  「なんで?」

荘司  「なんでって・・・・。お前が好きだから。何度も言わせんな。」

和葉  「ふーん・・・そっか。」

荘司  「そっかってお前・・・。」

和葉  「フフフッ」

荘司  「なんで笑うんだよ。真剣なんだぞ。」

和葉  「ごめんごめん。正直すごく嬉しい。」

荘司  「え?」

和葉  「荘司とは友人としてバランスがとれてたから、それ以上になるのは難しいって、

 

     だいぶ前に諦めてたから。」

荘司  「は? えっ? 諦め?」

和葉  「でも、結婚はちょっと考えさせて。」

荘司  「えぇ!?」

和葉  「だって、やっと荘司と向き合えるんだもん。恋愛として。」

荘司  「それって・・・。」

和葉  「ちょっとは情熱的にドラマティックにドキドキしたいの。

     だから、結婚前にきちんと恋愛しよ? 

     それから改めて結婚を考えようと思う。とっても前向きにね。」

荘司  「あぁ・・・あぁ!!」

和葉  「フフッ。不束な私ですけど、これからよろしくね。」

荘司  「おう!俺の方こそよろしく!」



 間。



荘司  出来上がっている関係を壊すのが怖かった。

    でも、そのままでいたら、他の男に持ってかれる。

    なりふり構ってられない。

    お前は俺が幸せにするし、お前が俺を幸せに出来るんだ。


和葉  人間関係ってどこでどうなるかわからない。

    命短し 恋せよ乙女

    女は何歳になっても乙女なの。

    密かに諦めてた感情が動き出した。

    きちんと向き合える相手があなたで良かった。向き合える自分で良かった。



荘司  なんだか遠回りをしたけれど、これが俺達の出した答え。

和葉  甘くて甘くて時々ほろ苦な、チョコレートとコーヒーの関係。



 

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