
導きの魔女 -共に白髪の生えるまで-
作 フジタハナ
【登場人物】
周子 ♀ しゅうこ 「心のよろず屋」の主
茜 ♀ あかね 迷い人 理想と現実に苦しむ
男性 ♂ 迷い人の彼
猫 兼役 (茜以外の方) 鳴き声のみ
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【配役表】
周子:
茜:
男性:
猫:
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茜M あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る
(あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみがそでふる)
母はこの和歌が好きだった。
きっと、自分の置かれた状況に重ね合わせていたんだろう。
茜 「人目を忍んだ恋・・・かぁ。」
茜M 小さな頃から母の『忍ぶ恋癖』を見てきた私は、それが幸せとは思えずにいた。
何人もの男が母の前から去っていく。
それは、母がそうさせているのか、男性が自ら去っていくのか、私にはわからなかった。
わかりたくもなかった。
茜 「共に、白髪の生えるまで・・・ね。」
茜M 私は、この人!って人が現れたら、全力でその人と最後まで添い遂げようと思っていた。
それが、一番幸せになる道だと思ってたから。
それが、母に対するささやかな反抗でもあったから。
周子 「こんばんは、旅のお人。」
茜M 見知らぬ女性に声をかけられ、緊張していた糸がプツリと切れたのを感じた。
ブワッと涙が溢れ出てきた。
これは一体どういう状況なのだろう。
ボンヤリとしていて、考えがまとまらない。
周子 「あらあら、大丈夫ですか?顔色がずいぶんと優れませんが。」
茜 「誰・・・? あなたは・・・だれ・・・?」
茜M 言うや否や、私はその場に崩れ落ちた。
間。周子の屋敷にて。
周子 「お目覚めですか?」
茜 「・・・え?」
周子 「まだボンヤリされていらっしゃいますが、顔色は幾分か良くなりましたね。」
茜 「あの・・・。」
周子 「さぁ、この香りを胸いっぱいに吸い込んで。」
茜 「?・・・(吸い込む)・・んん!。」
周子 「これはワタクシ特製の気付け薬。意識がだんだんハッキリとしてきますよ。」
茜 「ん・・・。」
周子 「息をしっかり吸って。・・・そう、ゆっくり吐いて・・。」
茜 「・・・ハァ・・・。」
周子 「・・・もう、大丈夫そうですね。何か温かい飲み物でもお持ちいたしましょう。」
茜M ・・・ここはどこなのだろう。薄暗い部屋。古いけど手入れが行き届いている調度品。
そしてこの香り・・・白檀(びゃくだん)をベースに何かがブレンドされている。
ぼんやりとしていた意識がだんだんハッキリとしてきて、私はゆっくりと起き上がった。
周子 「お待たせ致しました。こちらをどうぞ。」
茜 「ホットワイン・・・いい香り・・・。いただきます。(一口飲む)」
周子 「・・・。落ち着かれました?」
茜 「あ・・はい。色々親切にしてくださってありがとうございます。あの、ここは・・・。」
周子 「ここは「心のよろず屋」自分一人では抱えきれなくなった思いを、解決とまではいかないにしても、
次の場所へと導くところです。」
茜 「心の・・・。」
周子 「・・・何か、思い当たる事がありそうですね。」
茜 「あ・・・いえ・・。」
周子 「あなたは先程、ワタクシの屋敷の庭に迷い込んでいたのです。」
茜 「え・・ご、ごめんなさい。人のお宅に勝手に・・・。」
周子 「お気になさらずに。玄関ではなく、庭に誘(いざな)われた事自体稀ですから。」
茜 「え?」
周子 「ワタクシは周子と申します。あなたのお名前は?」
茜 「あ、茜と言います。」
周子 「茜様、あなたはワタクシを必要とされますか?玄関ではなく庭に誘われたということは、
まだお客様ではないという事。」
茜 「えっと、私とてもご迷惑を掛けてしまったようで、ご商売のお邪魔をしてしまってごめんなさい。」
周子 「いえ、商売ではないので。このままお客様として、誘われてもいいのですよ?」
茜 「あの、私良くわからないけど、もう大丈夫です。お邪魔しました!。」
茜M 周子さんの目を見ていると、全てを委ねてしまいたくなる。
でもこれは私の問題。関係ない周子さんにこれ以上迷惑は掛けられない。
周子 「茜様、ここの門はいつでも開いております。もしご用命がありましたら、いつでもどうぞ。」
間。茜 帰宅後。
男性 「おい!こんな時間までどこに行ってたんだ!!。」
茜 「ごめんなさい。すぐにご飯の支度するね。」
男性 「だからどこに行ってたんだって聞いてるんだよ!」
茜 「ご・・ごめんなさい。買い物してたらこんな時間に・・。」
男性 「はぁ?たかだか買い物でこんなに時間かかるわけないだろ!!」
茜 「ご・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・。」
茜M 彼は、私にしか受け止め切れないから。私じゃないと理解できないから。
だから、こんな風に当たることもある。うん・・・大丈夫・・・大丈夫・・・。
間。茜の過去1
茜M 出会った頃の彼はとても優しかった。母親思いの好青年だった。
男性 「あの・・・。」
茜 「あ、いらっしゃいませー。」
男性 「あ・・・えーと・・・。」
茜 「贈り物ですか?」
男性 「は、はい! えーと・・・。」
茜 「記念日やお祝いごとでしたら、今日はきれいな色の薔薇が入荷しております。」
男性 「あ、違うんです。お見舞いで・・・。」
茜 「それは失礼致しました。送り先はご自宅ですか?病院ですか?」
男性 「病院です。母が入院をしていて・・・。」
茜 「それは大変ですね。」
男性 「えぇ、今まで母が家事を全てしていたので、俺一人では何が何やらで・・・。」
茜 「普段家事をされてなければ、仕方がないことですよ。」
男性 「あはは・・・まったくお恥ずかしい・・。」
茜 「でも、お母様にお花を送られるなんて、とても素敵です。」
男性 「母一人子一人ですから、母が入院してから、余計母の大切さが身に染みたというか・・・。」
茜 「離れてわかる事ってありますよね。」
男性 「えぇ。そうなんですよね。生きているうちに親孝行しないといけないなと思いまして。」
茜 「お母様、そんなにお体悪いんですか?」
男性 「いえいえ!ただの骨折です!元気すぎて転んだんですよ。」
茜 「転んだって、打ち所によっては危ないんですよ。」
男性 「そうですね・・・。あはは、おねえさんには敵わないなぁ。」
茜 「あ、私こそ、お客様に込み入ったことを聞いてしまって申し訳ありません。」
男性 「いえいえ、逆に嬉しいですよ。なかなか自分のことを話す機会もありませんから。」
茜 「(クスッ)柔らかくて明るい色のお花にしますね。少しでもお母様の心が明るくなりますように。」
男性 「ありがとう・・・母も喜びます。」
茜M あの時の彼は、家族思いで少し気の弱い男性という感じだった。
初対面なのにとても話しやすくて、片親だということも私の境遇と似ていて、
なんとなく彼の存在が心に引っかかった。
そして彼は、3日毎店に通うようになり、お互いの距離も少しずつ近づいていった。
間。茜の過去2
男性 「(走ってくる)すみません!まだお店大丈夫ですか?」
茜 「大丈夫ですよ。あ、びっしょりじゃないですか!。」
男性 「あー、慌てて来たので傘さすのも忘れてました。」
茜 「もう!お母様が入院されてるのに、自分が風邪ひいて寝込んだら大変じゃないですか!」
男性 「あはは・・・。(小声で)でも、急がないと茜さんの顔見れないかと思って・・・。」
茜 「え?ごめんなさい今なんて・・・。」
男性 「な、何でもないです!」
茜 「はい、タオル使って下さい。しっかり拭いてくださいね。」
男性 「すみません、ありがとうございます。」
茜 「今日はどんなお花にしましょう?この間は夏らしく、デルフィニウムとヒマワリの
組み合わせだったから・・・。」
男性 「あ、あの百合きれいですね。」
茜 「あの百合はカサブランカと言います。百合の女王って言われてるんですよ。
香りが強いので病院には難しいんですけど。」
男性 「女王・・・。母よりも茜さんの方が似合いそうですね。」
茜 「え!? も、もう、口が上手なんだから~。」
男性 「いえいえ!そんなつもりじゃ・・・。」
茜 「(笑)」
男性 「あ、あの!」
茜 「はい?」
男性 「実は・・・母が退院しまして。」
茜 「え、そーなんですか?それはおめでとうございます。」
男性 「えーと、ありがとうございます。」
茜 「もう、お見舞いのお花は必要なくなりましたね・・・。」
男性 「えぇ・・・。」
茜 「でも、お母様が元気でいるのが一番ですから!本当に良かったです!」
男性 「あの!・・・茜さん・・・。」
茜 「・・・はい。」
男性 「今日私がここに来たのは、花を口実にするのを辞めようと思って。」
茜 「え?」
男性 「俺は、茜さんが・・・好きです。」
茜 「・・・。」
男性 「茜さんに会いたくてお店に通っていました。
こういうことが俺は不慣れで、どうやって伝えていいかわからず、こんなに時間が掛かってしまった。
茜さん、俺と・・・お付き合いしてください。」
茜M 不器用で雰囲気などお構いなしの告白。
でも私は、彼に出会ったときから惹かれていた。
きっと私の方が、先に好きになったんだと思う。
この人が、私の一生の人になるかもという直感。
共に、白髪の生えるまで・・・。
その日から私達のお付き合いは始まった。
間。茜の過去3
男性 「茜さーん!!こっちこっち!!」
茜 「待って!あーーもう歩くの早いんだからぁ。」
男性 「ここの水族館見どころいっぱいあって!」
茜 「だからって・・・早いよぉ。」
男性 「ごめんごめん。」
茜 「でもキレイね。今日は人も少なくて見やすいし。」
男性 「平日だからかなー。ヘヘっ、今日すごく楽しみにしてたんだ。」
茜 「そんなに水族館行来たかったの?」
男性 「そうじゃなくって・・・もーいいよ。」
茜 「ごめんごめん、意地悪な言い方しちゃった。」
男性 「あ、あっちにペンギンの赤ちゃんがいるんだって。」
茜 「そーなんだ。」
男性 「昔っから小さい生き物が好きでさ。」
茜 「へー。そんなに好きなんだ。犬や猫を飼ってたことあるの?」
男性 「いや、母が動物アレルギーを持ってて、飼ったことがないんだ。
飼ってみたいけど生き物はなかなか・・・。」
茜 「あ、ペンギンの赤ちゃん見に行く前に、イルカショー見に行かない? ほら、時間もちょうどいいし。」
男性 「え、ペンギン見たいんだけど。」
茜 「あーうん。でもほら時間が・・。」
男性 「(遮って)見たいって言ってるよね?」
茜 「あー・・・うん、わかった。んじゃ見に行こう。」
茜M この時、気がつけばよかった。でも、些細な事だと思って流してしまった。
彼と一緒に過ごす時間がなかなかないから、私は二人の時間を良いものにしようと、
すべて彼に合わせていた。
彼のデートプランの違和感や、全てを強引に進める事を、私は良しとしてしまった。
彼の優しさや家族思いな所、私を大切にしてくれる所。
プラスになる部分が多すぎて、マイナスに感じる所は何の解決もせずに過ごしていた。
そして、私達は同棲を始める事になる。
週末休みの彼と平日休みの私。同棲をするようになるまで、何の躊躇いも無かった。
間。同棲している部屋。男性は酔っ払って茜に絡んでくる。
茜 「ただいまぁ。」
男性 「…遅かったね。」
茜 「ごめんね、仕事が長引いちゃって。」
男性 「茜さまは仕事出来るからなー。みーんなに頼られるんだよねー。」
茜 「そんな事ないよー。ちょっと先にシャワー浴びるね。」
男性 「・・・(小声で)それに比べて俺は・・・。」
茜M 最近彼の仕事がうまくいっていないのを感じていた。
でもあえて聞かないでいてあげるのが、一番だと思っていた。
一緒に住んでるからといって、彼のデリケートな部分にあまり踏み込んではいけないと。
男性 「茜、シャワー長すぎじゃないか?」
茜 「え、ごめん。汗かいちゃったからしっかり浴びたくて。」
男性 「なー、お腹空いたんだけど。」
茜 「ごめんね、今すぐ作るね。」
男性 「チッ・・・グズグズすんなよ。」
茜 「あ、またお酒飲んでるの?」
男性 「いいだろ・・・酒飲んじゃいけねーのかよ。」
茜 「そうじゃないよ。ただ飲み過ぎは体に良くないから・・・。」
男性 「うるせーよ!!早く飯作れよ!!!。」
茜 「・・・・ごめんね。すぐ作るね。」
周子登場。
周子 「あなたは彼の言いなりになっていった。」
茜 「・・・。結果、そうなっていきました。」
周子 「あなたはこの状況から逃げ出そうとは思わなかったのですか?」
茜 「はい。彼の弱さを受け止められるのは、私だけですから。」
周子 「彼を愛していらっしゃる?」
茜 「えぇ。彼が弱さを出せる所は、私の前だけですから。」
周子 「・・・そうですか。」
茜 「・・・あれ?周子さん?なぜここに?・・・。」
周子 「覚えていませんか?」
茜 「覚えてるって何を・・?」
周子 「・・・いえ、何でもございません。さぁ、あなたの全てを見せて下さい。」
茜 「え?・・・っ!!!(眩しくて目を閉じる」
間。世界が白く輝きはじめ、あたりを染めてゆく。真っ白な世界の真ん中にある空間が現れる。
周子 「茜様、ゆっくりと目を開いて下さい。」
茜 「んっ・・・ここは・・・?」
周子 「ご覧ください。あなたと彼が一緒にいます。」
茜 「これは・・・私の誕生日。彼から指輪をもらった日。」
周子 「指輪ですか。」
茜 「えぇ、彼から「結婚しよう」って・・・。」
周子 「そうですか。」
茜 「でも・・・私は躊躇った・・・。。」
間。茜の過去 男性は酔っ払っている。
男性 「え・・・。なんでだよ・・・。」
茜 「ごめんなさい。少し・・・考えたいの・・・。」
男性 「考えるって何をだよ?」
茜 「あなたの事は好きだけど・・・。」
男性 「好きならいいじゃないか!!」
茜 「・・・。」
男性 「なんとか言えよ・・・。」
茜 「・・・(泣き始める)」
男性 「泣いてないでなんとか言えよ!」
茜 「・・(泣き続けている)」
男性 「なんだよ!俺のせいかよ!」
茜 「そんな事思ってないよ・・・。」
男性 「じゃあなんなんだよ!!(机を叩く」
茜 「っ!!!」
男性 「俺の事、本当はバカにしてるんだろ・・・」
茜 「っ!! してないよ・・・バカになんて・・・」
男性 「じゃーなんだよ!何が不満なんだよ!(襟ぐりを掴みかかる」
茜 「っ!!!やめて!!!」
周子 「あなたははじめて、彼を拒絶した。」
男性 「えっ・・・(戸惑い掴んだ手を離す」
茜 「もうやめて・・・。こういう所が嫌なの!!!」
男性 「・・・え。」
茜 「どうして・・・こんな事するの・・・。」
男性 「それはお前がはっきりしないから・・・。」
茜 「なんとか受け止めたいと思った。あなたの弱い所、全部ぜんぶぜーーんぶ!!」
男性 「あ・・・茜・・・。」
茜 「もう、どうしていいかわからない・・・。」
男性 「・・・。」
茜 「どうしてこうなるの・・・。私頑張ったのに・・・。」
男性 「・・・。」
茜 「本当に・・・もうわからないの・・・ごめんなさい・・・。」
間。茜の泣き声が響く。
男性 「・・・いや、俺の方も悪かった・・・。」
間。茜がゆっくり男性を見る。
男性 「俺・・・最近仕事が上手くいかなくて、ずーっとイライラしてた。
このイライラを上手く発散出来なくて、茜にぶつけてた。
お酒に逃げるようになって、だんだんエスカレートしていって、僅かな事でも当たるようになってた。
どんなにへこんで帰ってきても、茜は何も言わずに俺を受け止めてくれてるってのに・・・。
このままじゃダメだ。いけない事だってわかってるんだ。
でも、止められない・・・。
もう・・・限界なんだ・・・。
(頭をかきむしりながら)
くっそ・・・俺が不甲斐ないばかりに、茜にこんな事しちまうなんて・・・。
でもこのムシャクシャした気持ちをどう処理していいのかわからない・・・。
ごめんな・・・こんな俺でごめんなぁ・・・。
俺はもうダメだ・・・。
間。
男性 「・・・あ・・・そうだ・・・。
もう、こんな俺は死んだほうがいいんだ・・・。
そしたら・・・お前に迷惑かけないだろ?」
周子 「キッチンから包丁を持ち出して、喉元で止めた。」
男性 「ごめんな・・・ごめんな茜・・・。本当にごめんっ!」
周子 「包丁を振り上げる。」
茜 「バカっっ!!!!(包丁を掴んで放り投げる」
男性 「あ・・・あかね・・・。」
茜 「なんで死ぬなんて言うの!? そんなんじゃない・・・そんなの欲しくない!!」
男性 「だって・・・こんな俺に価値なんてないだろ。」
茜 「そうじゃない。私が欲しいのは 一緒に乗り越えるチカラ だよ。」
男性 「でも、今の俺じゃ・・・。」
茜 「関係ないよ!!優しさも弱さも全部あなただから!私が好きになった人は、そんなあなただから!!」
男性 「・・・。」
茜 「ねっ? 一緒に乗り越えよう?」
男性 「・・・。」
茜 「二人一緒ならできるよっ!私、はじめてあなたの気持ちを聞いた。教えてくれた。嬉しかった。」
男性 「・・・言えなかったから。」
茜 「言えないように、私がきっとして来たんだよ。」
男性 「そうじゃない。俺が弱かっただけだ。」
茜 「大丈夫。きっと二人一緒なら乗り越えられる。」
男性 「・・・あぁ。」
茜 「一緒がいい。一緒じゃないとやだ・・・。」
男性 「あぁ・・・ごめんな・・・。ありがとう・・・。」
間。現実へ戻る。
周子 「あなたは彼と一緒にいることを選んだ。」
茜 「えぇ・・。決めた。彼と一緒にいるって。」
周子 「そうですか。」
茜 「何か言いたげね。」
周子 「いいえ。茜様が選んだ事です。さぁ、おすすみください。」
茜 「・・・フフ、わかってるの。自分でもバカだって。」
周子 「・・・。」
茜 「でも、ずっと決めていたの。彼に会う前から。この人だって人が現れたらって。
共に白髪の生えるまで・・・。
母のようにはならないって。これが私の生き方だって。」
周子 「そうですか。」
茜 「えぇ!私行くわ。周子さん、ありがとう。」
周子 「ここの門は常に開いていることを、お忘れなきよう。」
茜 「ありがとう・・・。でも、もう二度と来ないわ。」
周子 「わかりました。茜様の行く先に 幸多からん事を。」
茜 「さようなら。」
間。
周子 愛にはいろんなカタチがあります。
相手を思いやる愛情。自分を思いやる愛情。
相手が繊細で傷つきやすく、感情のコントロールが上手くいかない時、それを受け入れ、
乗り越えようと努力をする。
その努力は並大抵の事では出来ない、とても素晴らしい事だと思います。
それが愛だと思って、それがお互いの為だと思って・・・。
果たしてそれは、本当に相手への愛なのでしょうか?
茜様はご自分の理想の為に、彼との関係を継続すると決めた。
そんな意地ともとれる理想は、本当に自分の幸せへと繋がっていくのでしょうか、
ワタクシには分かりかねます。
あの時、自分一人では解決できず「心のよろず屋」への道が、自然に開かれたというのに。
願わくば、茜様の行く先が明るいものでありますように。
間。現在。
猫 「ニャァニャ~」
茜 「あれ?どーしたの?こんなに泣いて・・・。一人なのかな?」
猫 「ニャー、ニャアァ」
茜 「あーあーあー、そんなに泣かないで。んー、バッグに何かなかったかなぁ。」
猫 「ニャァァ」
茜 「あ、あった!お昼の残りのパンだけど・・・。」
猫 「ニャア!!」
茜M 彼も猫好きだし。この子がいたら少しは彼も・・・。
猫 「ニャ?」
茜 「うちに・・・来る?」
周子 心に迷いが生じた時、1人で抱えきれなくなった時は、どなた様も「心のよろず屋」へお越しください。
「導きの魔女」の役目が終わる時まで、ワタクシは、門を開いてお待ちしております。