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作 フジタハナ

【登場人物】


周子 しゅうこ ♀  「心のよろず屋」の主

四葉 よつば  ♀♂ 迷い人 小さくて無邪気なお客様

女性      ♀  四葉の姉のような存在

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【配役表】

周子:
四葉:
女性:

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周子 今日は朝からどんよりとした曇り空。

   べったりと肌にまとわりつく湿度の高さがいかにも日本らしいけれど、

 

   ワタクシはこの湿度があまり好きではない。

   雨に打たれるのは好きだけれど、湿度はまた別のもの。

   こんな日を気持ちよく過ごすには、おいしいお酒と食べ物。後は見目麗しいナニカがあればいいのにと思う。

   世の中そんなに都合よく現れるわけではないけれども。

四葉「こ・・こんにちは・・・。」

周子 今日も誰かが誘(いざな)われたようですね。

   さぁ、部屋にご案内しなくては。

   
  間。


周子 まぁ!今日のお客様はなんて可愛らしいお方。

   ワタクシの心も晴れやかになるというもの!

   しかし・・・、ここに誘(いざな)われたということは・・・・。

     

  間。部屋の中。




四葉 「あの・・・ここは・・・。」

周子 「ここは「心のよろず屋」 あなたが心に抱いているナニカを、解決とまではいかないにしても、

 

    次へと導くところです。」

四葉 「よろず屋・・・。とはなんですか?」

周子 「「なんでも屋」というのが一番わかり易いかしら。あなたの心にある棘をワタクシに見せてください。」

四葉 「あ、はい! どうぞいくらでも!」 グッっと周子に近づく

周子 「あ、ちょっ近い近いっ・・・少し、落ち着いて。」

四葉 「あぁぁ!ご、ごめんなさい!」 

周子 「大丈夫ですよ・・・。そうですね、何か飲みましょうか。きっと落ち着きますよ。

 

    と言っても、こんな小さいお客様に合う飲み物は・・・。」

四葉 「じゃあ・・・ミルクを!!」

周子 「・・・。(クスッ)わかりました、少しお待ち下さい。」 


  周子、部屋から出る


四葉M ふぅ、なんだか緊張しちゃうな。さっきのお姉さんに見つめられるとドキドキしちゃうなぁ。

    (あたりを見回す)

    ここは不思議なところだなぁ。
   
    不思議な匂いがする。薄暗い灯り・・・普段なら落ち着くはずなのに、

 

    常に誰かに見られているような緊張感がある。

    部屋に浮いている光のような白いモノはなんだろう?

    わっ!このフカフカで手触りのいい布!気持ちいいなぁ。

    あのお姉さんを思い出すなぁ。


周子 「お待たせ致しました。」

四葉 「あ、ありがとうございます!」

周子 「クッキーもどうぞご一緒に。」

四葉 「わぁー!おいしそう!いただきます!。」

周子 「ミルクには蜂蜜を入れて温めてあります。火傷しないように・・。」

四葉 「あちっ!!」

周子 「あら、大丈夫ですか?」

四葉 「だ・・・だひじょうぶれす・・。」

周子 「気をつけてくださいね。」

四葉 「は・・・はひ・・。」

周子 「・・・さて、お話をいたしましょう。あなたのお名前は?」

四葉 「ボクは、四葉と言います。」

周子 「ワタクシは周子と申します。さぁ、四葉様、お話をお聞かせ下さい。」



四葉M 甘いミルクの香りに包まれ、心地の良い周子さんの声を聞きながら、

 

    眼の前に霞がかかっていくのをぼんやり感じた。

    時々光のような白いものが小さく弾け、光の粒がボクの周りに覆い、世界が加速しはじめた。

    ハッ!っと気がついた時には、目の前にあの時の情景が広がっていた。

周子 「気が付きましたか?」

四葉 「あ、はい。えっとここは・・・。」

周子 「公園のようですね。あなたは泣いているようです。」


 四葉の過去1


四葉 「・・・(泣いている)」

女性 「あれ?どーしたの?こんなに泣いて・・・。一人なのかな?」

四葉 「あ・・・あの・・・(もっと泣く)。」

女性 「あーあーあー、そんなに泣かないで。んー、バッグに何かなかったかなぁ。」

四葉 「おねー・・さん?」

女性 「あ、あった!お昼の残りのパンだけど・・・」

四葉 「うぅ・・・。」

女性 「ほら、泣かないで。一緒に食べよう。ほら、はんぶんこ。」(手渡す)

四葉 「あ、ありがとう。」

女性 「(一口食べる)んー美味しい!仕事が忙しくてさ、お昼食べそこねてお腹ペコペコだったからさ。」

四葉 「・・・(食べる)・・・おいしい!とってもおいしい!」

女性 「(クスッ)ほら全部あげるから・・・、ちょっと、ガッツかないでゆっくり食べて。」

四葉 「はい!」



 周子との空間に戻る


四葉 「この時のおねーさん、泣きわめくボクにとっても優しくしてくれた。とっても嬉しかった。」

周子 「なんだか微笑ましいですね。では・・・時をすすめてみましょう。」


  間。


四葉 「ん? この匂いは・・・。」

周子 「先程の女性がキッチンにいますね。この部屋は、どこでしょう?」

四葉 「この部屋は・・・おねーさんのおうちだ。」



 四葉の過去2


四葉 「おねーさん!!」

女性 「わっ! あーもう、四葉ってばイタズラばかりして!スープこぼしちゃうところだったじゃない!。」

四葉 「アハハ!ごめんなさーい!」

女性 「もー熱いんだから気をつけてねー。」

四葉 「はぁーい!」

周子 「仲の良い姉妹(姉弟)・・・というか、親子のようですね。」

四葉 「(周子に)うん。おねーさんはとっても良くしてくれたよ。」

女性 「ほら、四葉も一緒に食べよう。今日は四葉の好きなご飯だよ。」

四葉 「わー!美味しそう!いただきまぁーす!」

女性 「いただきます。(食べる)・・・ん、これちょっと塩っぱいかも・・。」

四葉 「おねーさんのご飯はおいしいよ!」

女性 「これは後で手直ししないとかなぁ。」

四葉 「えー、大丈夫だよぉ。ほら、ボクもう食べ終わっちゃうよぉ。」

女性 「四葉はご飯食べるの早いなぁ。ここではゆっくり食べていいんだよ?」

四葉 「(ガツガツ食べる) ・・・・ぷっはぁ!おいしかったぁ!」

女性 「あーもう四葉ってば、こぼしてるよ。」

四葉 「ご、ごめんなさい。すぐ拾うから・・・。」

女性 「お、偉いぞぉ。四葉はきちんと最後まできれいにできたね。」

四葉 「えへへ!ほめられたぁ!。」


  間。


四葉 「おねーさんのご飯とっても美味しかったなぁ。」

周子 「・・・。少し、時をすすめてみましょう。」


  間。


周子 「次も先程と同じ部屋のようですね。」

四葉 「あれ?おねーさんの様子が変だ・・・。」

周子 「女性の顔にあざがありますね。髪であざが見えないようにしていますね。」



 四葉の過去3


四葉 「おねーさん。顔どうしたの?大丈夫?」

女性 「あ、ごめんね、待たせちゃって。」

四葉 「そんなのはどーでもいいよ。」

女性 「何か飲む?」

四葉 「あいつにやられたの?」

女性 「冷蔵庫に何かあったかな?四葉の好きなミルクあったかなぁ?」

四葉 「おねーさんなんで我慢してるの?あんなやつの言いなりになってばかりじゃ・・・。」

女性 「あ、あった。ほんの少し温めてあげるね。そっちの方が飲みやすいしね。」

四葉 「そんなのどーでもいいよ!ボクの話きいてよ!!言いなりになってばかりじゃダメだよ!!」

女性 「はい、できた。ゆっくり飲んでね。」

四葉 「いらないよ!!!(ひっくり返す)」

女性 「あっ!! あー、もう四葉ってば。 あ・・・だめ・・・やめて!!!!」

四葉M ・・・え?

女性 「四葉!!! 大丈夫!?」

四葉M 何これ・・・・

女性 「や・・やめてください・・・ごめんなさい・・私がきちんと躾しますから・・・」

四葉M これは何・・・?

女性 「私が悪かったの・・・私が四葉を・・・だからもうやめ・・・あぁぁ!!!」

周子 「男性が女性に、暴力行為を働いていますね。」

四葉 「やめて!!!!」

女性 「だめ!!出てきちゃだめ!!。」

四葉 「だって・・・だってこのままじゃおねーさんが・・・。」

女性 「四葉!!!」

周子 「彼女は必死にあなたを守ろうとしている。」

四葉 「ボクがその男を止めるから!!!おねーさんどいて!!!」

女性 「だめ・・・出てきちゃだ・・・あっ!!!」

四葉(猫) 「ニャアァ!!!!」

周子 「・・・・あなたを・・・掴んで・・・投げた・・・。」

女性 「ああああぁぁああぁっぁぁ!!!!」


  間。現実へ戻る。


四葉 「ボクは・・・。」

周子 「あなたは・・・。」

四葉 「・・・猫・・・だったの・・・?」

周子 「・・・そう、あなたは、彼女に拾われた猫。」

四葉 「おねーさんは・・・。」

周子 「あなたを庇って、殴られていますね。」

四葉 「えっ・・・おねーさん・・・・おねーさん!!!」

周子 「我々は、今見ている世界に干渉できません。」

四葉 「周子さん!! このままじゃおねーさんが死んじゃう!!!」

周子 「いえ、彼女は死にません。」

四葉 「あんなに殴られて蹴られてるのに!?」

周子 「えぇ、死にません。死ぬのは・・・。」

四葉 「死ぬのは・・・?」


  間。


周子 「四葉様 あなただからです。」

四葉 「・・・・え?。」

周子 「時を・・・すすめます・・・。」


  間。


四葉 「ここは・・・病院・・?」

周子 「そのようですね。」

四葉 「周子さん・・・ボク・・・この記憶少し思い出したよ。」

周子 「そうですか。」

四葉 「おねーさんが泣いてる・・・。」


 四葉の過去4

女性 「四葉・・・ごめんね・・・ごめんね・・・。」

四葉 「お・・・ねぇ・・・さん・・・。」

女性 「声出さないでいいから!四葉ぁ・・・。」

四葉 「ボク・・・おねーさんを守りたかった・・・。」

女性 「ごめんね・・・私がもっと強かったら・・・。」

四葉 「・・・悔しいよ・・・ボクにもっとチカラがあったら・・・。」

女性 「・・・私・・・このままじゃダメだね・・。」

四葉 「あんな男から、守ってあげれるのに。あんな男ブチのめしてやるのに・・・。」

女性 「四葉・・・私・・・彼と別れる。このままじゃダメだ・・・。」

四葉 「おねぇ・・さん・・。うん・・うん!!(泣」

女性 「一緒にあの家を出よう。一緒に幸せになろう。だから四葉・・・。」

四葉 「・・・ボクの声が・・・おねーさんに届いたらいいのに・・・。」

女性 「しっかりして!!四葉ぁ!!!」

四葉 「ボクがおねーさんを、幸せにできたらいいのに・・・。」

女性 「いやぁ!!!死なないで!!!。」

四葉 「神様・・・非力なボクのお願いなんて、聞いてもらえないかもだけど・・・。」

女性 「・・・嘘・・・嘘だ・・・。四葉ぁ!!!!」

四葉 「おねーさんが・・・幸せになるように・・・。あの男が・・・地獄におちますように・・・。」



  間。現在に戻る



周子 「あなたは彼女に拾われた猫。彼女はあなたをとても可愛がっていた。

    家にいる時は常にあなたと一緒だった。まるで血の繋がった家族の・・いえ、それ以上の存在だった。」

四葉 「おねーさんが大好きだった。仕事でクタクタになっても必ずボクとの時間を作ってくれた。

    美味しいご飯を用意してくれて、一緒のお布団で眠った。」

周子 「でも、同棲していた彼の暴力が日増しに増えていった。」

四葉 「二人は愛し合っていた。でも、おねーさんは殴られるんだ。」

周子 「それは、」

四葉 「わかっている。」

周子 「・・・え?」

四葉 「ボク、二人の関係を少しは理解しているんだ。」

周子 「・・・。」

四葉 「愛情の裏返し。きっとあの男はおねーさんの事好きなんだけど、自分が抑えられないんだよね。」

周子 「・・・。」

四葉 「なんとか助けたかった。でも、非力なボクには何もできなかった・・・。」

周子 「・・・。」

四葉 「だから、ボクは、おねーさんとの時間を大事にした。おねーさんが笑顔で過ごせるようにって。」

周子 「四葉様・・・。」

四葉 「周子さん。ボクは・・・・どちらに向かえばいいんだろう・・・。

    おねーさんには幸せになってもらいたい。笑顔でいてほしい。

    そして、あの男が許せない。ボクは絶対許さない・・・。」

周子 「・・・そうですか。」

四葉 「あの男、殺してやりたい。あんなヤツ人間じゃない・・・。」

周子 「その言葉、案外間違ってはおりません。」

四葉 「・・・。」

周子 「どちらにおすすみになられますか? 守護するものとなるか。死神となるか。」

    あなたのような生き物は、人間よりはるかに純粋で本能に抗えない。

    ワタクシは迷い人を次へと導く事以外出来かねます。

    四葉様がどちらの道におすすみになるかは、ご自分でお決め下さい。

    どのくらい時間をかけても構いません。

    ただ、時間は有限でございます。あまり時間を掛けないほうがよろしいかと。」

四葉 「うん・・・。わかってる・・・。今は決められない。けど、そのうち、きっと・・・。」


 

  間。



周子  動物の愛情はとても純粋です。

    時折人間を試す事も致しますが、愛情を知っているからこそ出来るもの。

    四葉様は愛に飢えていた所、目一杯の愛情を彼女から注がれた。

    その愛情以上のものを四葉様は彼女に返したかった。

    そのバランスを壊したものも、また愛情。

    歪んだ愛情は周りを巻き込み、悲しい結末となってしまいました。

    どんなに小さな可愛らしいお客様でも、心にはどす黒い何かを抱えているもの。

    純粋であるがゆえ、白と黒は決して混じり合わない。

    人間なら混じり合う瞬間もあるでしょうが、本能で生きる動物には無縁かと。

    この先どの様な決断を下すにしても、ワタクシはお客様の決断を受け入れ導くだけ。

    この世知辛い「導きの魔女」の役目がいつまで続くのやら。

    純粋な感情に引っ張られているうちは、ワタクシもまだまだと言う事ですね。

    願わくば、皆が幸せにあらんことを。

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